星新一
SFにほとんど関心のない人でも、星新一は読んでいるだろう。星製薬の御曹司であったことや森鴎外の妹の孫であったことなどは、
星自身の「人民は弱し 官吏は強し」あるいは「祖父小金井良精の記」に詳しい。
しかし、本書はそれらでは明かされなかった、
あるいは星自身が意識してかどうか書かなかった隙間を埋める作業を
遺品や徹底取材によって忠実に行っている。
戦中戦後を生きた一人の昭和の人間としての波乱の生涯、
ショートショートという文学の新ジャンルを開拓しようとした小説家としての苦悩、
文壇における評価の低さ、
SFを牽引したにもかかわらずSF界からも疎外されていく晩年の姿には胸が詰まる。
小松や筒井らをはじめ、鶴見俊輔や初恋の女性、タモリなど多くの関係者の肉声があり、
伝記によって一人の人間の生涯を共に生きるという読書の喜びを久しぶりに堪能した。
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